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人工内耳について

[2025.09.29]
難聴の治療には補聴器が広く用いられていますが、重い難聴では補聴器だけでは十分な聞こえを得られないことがあります。人工内耳は、世界で最も普及している人工臓器の一つで、補聴器では十分な効果が得られない重い難聴に対して、聴覚を取り戻す唯一の方法です。ただし効果には個人差があり、手術直後から自然に聞こえるわけではありません。最初に聞こえる音は不自然に感じられることもありますが、訓練を続けることで徐々に言葉の聞き取りが改善していきます。このため、本人の努力と家族の支援を伴う訓練が不可欠です。
耳は外耳道から鼓膜、中耳を経て内耳に音が伝わり、有毛細胞が電気信号に変換して聴神経へ送ります。内耳が障害されるとこの働きが失われますが、人工内耳はマイクで拾った音を電気信号に変え、内耳に埋め込んだ電極から直接聴神経を刺激することで音を伝えます。情報量は正常耳に比べて少ないため、重要な音の特徴を効率よく脳に伝える仕組みになっています。
人工内耳は体内に埋め込む装置と、耳かけ型などの外部装置から成ります。外部マイクで集めた音が処理され、磁石付きの送受信装置を介して電極へ送られます。近年は低音域の聴力を残したまま高音域を人工内耳で補う「ハイブリッド型」も登場しています。
対象となるのは、成人では高度〜重度難聴で補聴器が無効な方、小児では1歳以上で十分に音や言葉を理解できない場合です。両耳に装用することで方向感や雑音下での聞き取りが改善することも知られています。手術は全身麻酔下で行われ、年齢制限はなく、全身状態と術後の訓練への意欲が重要です。小児では家族や教育機関との協力体制も不可欠です。
人工内耳の普及は進んでおり、日本でも年間1000件を超える手術が行われています。早期発見のため新生児聴覚スクリーニングや遺伝子検査も広まり、低年齢での手術が増えています。ただし人工内耳は「手術がゴール」ではなく、術後のリハビリを通じて初めて言葉の理解が可能になります。医療と家族、教育機関の連携が成功の鍵となります。
現代の医療技術によって、聞こえの選択肢は広がっています。難聴で補聴器を使っても会話が困難な場合には、人工内耳の適応があるかを耳鼻咽喉科で専門医に相談してみてはいかがでしょうか。
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